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世界初、米バイオ企業がミツバチ用ワクチン開発…養蜂場などに壊滅的被害もたらす「ふそ病」予防
養蜂場などのミツバチに壊滅的な被害をもたらす伝染病「アメリカふそ病(AFB)」を予防するため、米バイオ企業が世界初のミツバチ用ワクチンを開発した。AFBは日本を含む世界中で被害が発生していて、ワクチンの国際展開も検討されている。(米ジョージア州アセンズ 冨山優介)
病原菌が引き起こすAFBは、伝染力が強いうえに致死性が高く、養蜂場のハチが全滅することもある。日本でも例年約30の養蜂場で被害が報告され、昨年は長野県や福島県など7都道県で発生。感染が判明すると、家畜伝染病予防法に基づき、巣箱ごと全て焼却処分することが義務付けられていて、経済被害は深刻だ。
これまで根本的な予防法はなかったが、米ジョージア州に拠点を置くバイオ企業「ダラン・アニマル・ヘルス」が世界初のミツバチ用ワクチンを開発。今年5月に米国内で出荷を始めた。
同社によると、開発したワクチンには無害化したAFBの病原菌が入っていて〈1〉餌として働きバチに食べさせる〈2〉働きバチが自らの分泌液で作る餌にワクチン成分が移行〈3〉女王バチが餌を食べ、体内に強い免疫が備わる〈4〉女王バチが産む働きバチに免疫が伝わる――という仕組みで作用する。
最新の研究で、ミツバチは、獲得した免疫を子孫に受け継ぐことがわかっている。同社はこの特徴に着目し、ワクチンを実用化した。
事前の試験では、免疫を受け継いだ働きバチの幼虫は病原菌にさらされても死ぬ割合が3~5割減った。米農務省は昨年12月、ワクチンを暫定承認し、同社は正式承認に向けて養蜂場での有効性を評価中という。
ミツバチなど花粉を運ぶ生物は、植物の受粉を助け、作物生産や生態系の維持に重要な役割を担っている。国連食糧農業機関の推計では、約90種類の食用作物が恩恵を受け、経済的な価値は年間で約5800億ドル(約83兆円)に上る。
だが、ミツバチは近年、AFBや農薬、地球温暖化の影響など様々な要因で激減し、世界的な問題になっている。米国では2020~21年、養蜂場の4割超のミツバチが失われている。
同社のアネット・クライザー最高経営責任者(CEO)は「ワクチンはミツバチを守り、養蜂家や農業者の大きな助けとなる。需要があれば、日本での承認申請も検討したい」と話した。
国立研究開発法人「農研機構」の高松大輔グループ長(獣医微生物学)の話「AFBが予防できれば養蜂家のメリットは非常に大きい。米国での予防効果の検証に注目したい」
腐蛆病発生蜂群は焼却処分
腐蛆(ふそ)病は、蜜蜂の蜂児の細菌感染症で、家畜伝染病予防法で家畜伝染病に指定されている。死んだ幼虫や蛹(さなぎ)が腐るという共通の症状のため、法律ではまとめて腐蛆病と呼ばれているが、この病気にはアメリカ腐蛆病とヨーロッパ腐蛆病という全く異なる二つの病気が含まれる。
アメリカ腐蛆病は、グラム陽性の有芽胞桿菌であるアメリカ腐蛆病菌(Paenibacillus larvae)によって引き起こされる病気である。若齢幼虫がアメリカ腐蛆病菌の芽胞に汚染された餌を食べることによって感染する。感染幼虫は、蛹になるために幼虫の部屋(巣房)に蓋がされた後に死ぬことが多い。
死んだ幼虫はアメリカ腐蛆病菌が作るたんぱく質分解酵素の働きで分解され、次第に茶色〜チョコレート色になり、爪楊枝や綿棒などを巣房に差し込むと糸を引いて付いてくる粘稠(ねんちょう)性のある腐蛆となる。また、発症蜂群では、巣房の蓋は黒ずみ、張りを失って内側にへこみ、働き蜂に開けられた小孔がみられるようになり、刺激臭(膠臭、納豆臭)が漂うようになる。
一方、ヨーロッパ腐蛆病は、グラム陽性槍先状レンサ球菌のヨーロッパ腐蛆病菌(Melissococcus plutonius)によって引き起こされる。こちらも菌に汚染された餌を幼虫が食べることによって感染するが、発症はアメリカ腐蛆病より早く、巣房に蓋が掛けられる前に死ぬことが多い。死んだ幼虫は通常は働き蜂によって巣から排除されるが、排除されない場合は乳酸菌などの二次感染菌の影響で変性・分解され、張りがなくなり、乳白色〜褐色の水っぽい腐蛆となって、酸臭を発することがある。
どちらの菌も人への感染はない。しかし、アメリカ腐蛆病が発生した場合、抵抗性の強い芽胞が周辺の土壌や巣に残るため、その後の飼養には注意を要する。
対策
海外では抗生物質による治療が行われることもあるが、日本で発生した場合、発生蜂群は焼却処分される。アメリカ腐蛆病の予防には、タイロシンという抗生物質も利用できるが、蜂蜜に抗生物質が残留しないように用法・用量を守って使用する必要がある。
[写真:アメリカ腐蛆病に侵された蜜蜂の巣]
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